Citi、J.P.モルガン、Mastercardらが規制決済ネットワーク(RSN)の実証を完了

米証券業金融市場協会(SIFMA)が2024年5月に発表した規制決済ネットワーク(Regulated Settlement Network, RSN)の実証実験(PoC)がこのほど完了した。このプロジェクトは、2023年に行われた規制責任ネットワーク(Regulated Liability Network, RLN)の成果をもとに、対象資産の拡張(トークン化された国債や投資適格債券を含む幅広い資産クラス)やネットワーク相互運用性の強化を目指して進められた。

参加したのは、シティグループ、J.P.モルガン、マスターカード、Swift、TDバンク、ウェルズ・ファーゴ、Visaなど10の主要機関であり、SIFMAが全体の調整役を務めた。また、BNY MellonやDTCCといった市場インフラを支える企業、ISDA(国際スワップデリバティブ協会)などの業界団体、さらにアドバイザーとしてDeloitteや、Sullivan & Cromwell弁護士事務所も参加し、法規制や技術的視点からプロジェクトを支援した。

このプロジェクトにより、RSNは次世代の金融市場インフラとしての可能性を大きく広げた。関連するビジネス、技術、法規制の観点から3つの詳細な報告書がまとめられ、RSNの具体的な展望が示されている。


RSN実証実験:5つのユースケース

クロスネットワーク決済
規制決済ネットワーク(RSN)は、SWIFTのプロトタイプやマスターカードのマルチトークンネットワーク(MTN)を通じて、異なるDLTネットワーク間の相互運用性を実現。これにより、トークン化資産の交換が可能となり、金融機関の運用効率が大幅に向上することが確認された。


RSN非参加銀行の決済モデル
コルレスバンキングを活用したRSN非参加銀行の決済効率化モデルが検証された。RSNに直接参加していない銀行がRSNメンバーを介してトークン化資産を利用できる仕組みを導入することで、非参加銀行が独自に複雑なシステムを構築することなく、RSNのメリットを享受し、取引の簡素化や取引透明性向上が実現された。

投資適格債券のリアルタイム決済
トークン化された投資適格債券と中央銀行預金を用いたリアルタイムDvP(Delivery Versus Payment)決済モデルを検証。取引リスクの軽減と効率性の向上が明らかになった。さらに、24時間365日稼働するネットワークにより、グローバル市場での取引対応が可能となった。

ディーラー間の国債決済
ディーラー間の国債取引において、資金効率を高めるための複数回ネット決済モデルが検証された。このモデルでは、中央清算機関(CCP)を利用して1日の取引を複数の時間帯に分け、各時間帯ごとに取引を集計し差額を決済する仕組みが採用された。

具体的には、取引を集約してネット決済を行うことで、参加者が必要とする資金量を大幅に削減できる。この仕組みにより、日中の流動性の確保が容易になるだけでなく、取引リスクも軽減される。さらに、今回のモデルは、米国証券取引委員会(SEC)が導入を進めている新たな規制要件にも適合する形で設計されている。

日中レポ取引の効率化
日中の流動性確保を目的として、Broadridge社が提供するDLR(Distributed Ledger Repo)プラットフォームと連携した取り組みが検証された。DLRは、トークン化された担保資産を活用し、レポ取引を効率化するための仕組みである。
具体的には、DLRを利用することで、担保資産のデジタル化による取引プロセスの迅速化が可能となった。これにより、従来は数時間またはそれ以上を要していた担保の移転や確認作業が大幅に簡略化され、取引コストの削減が実現した。また、リアルタイムで取引状況を把握できるため、取引リスクの軽減にも寄与している。

この仕組みは、金融機関が日中の流動性を迅速に確保できるだけでなく、資金繰りの効率性を向上させる重要な役割を果たすと期待されている。

2024.12.5 The RSN proof of concept(PoC)レポート – PoCの概要


技術の観点から見たRSNの特長

RSNは、Digital Asset社のCanton DLTを基盤に設計された。このプライベート型分散台帳技術は、参加者間のプライバシーを保護しながら、リアルタイムで取引を同期できる点が特長である。さらに、スマートコントラクトによる自動化が、透明性と信頼性の向上に寄与している。

また、RSNは外部ネットワークとの相互運用性を重視。SWIFTやマスターカードのネットワークを活用し、異なる台帳間でトークン移転を実現した。この柔軟性により、RSNは次世代の金融市場インフラとしての実現性を一段と高めている。

特に注目すべきは、24時間365日稼働する仕組みだ。従来の営業日や取引時間の制約を超え、グローバルな市場ニーズに応える新たな可能性を提示している。


今後の展望:SIFMAが描くRSNの次のステップ

今回のPoCを踏まえ、SIFMAはRSNの本格導入に向けた取り組みを明らかにしている。

まず、業界全体との連携を強化する。RSNの基盤となる共有型台帳技術の標準化に向けた対話が深化する見込みである。特に、相互運用性やプロトコル設計の標準化を通じて、広範なネットワーク構築が目指される。

また、規制機関との連携も重要である。トークン化資産に関する新たなガイドラインを策定し、SECやCFTCと協力して既存の法規制フレームワークを整備する計画だ。さらに、RSNが「システム的重要金融市場ユーティリティ(SIFMU)」として認定される場合には、これに対応した監督体制が求められる。

加えて、実現可能性調査が進められる。技術的なスケーラビリティや性能、法的課題、ビジネスモデルの適合性を評価し、RSNの採用可能性を具体化していく方針である。

SIFMAは、今回のPoCで得られた知見をもとに、金融市場の新たな商品やサービスの開発を推進する。クロスネットワーク決済やリアルタイム流動性管理など、既存の市場構造を変える可能性を秘めた取り組みが注目される。

RSNはまだ発展途上にあるものの、その実証実験を通じて次世代の金融市場インフラとしての可能性を示した。今後、SIFMAが進める具体的な計画が結実すれば、RSNは業界全体の効率性と透明性向上に寄与する新たな仕組みとして定着するだろう。

(参考)原文レポート:ビジネステクノロジーリーガル

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