シンガポールで開催されたFintech Festival(2024年11月6日から8日)で、AmazonはNTTドコモのデジタル子会社であるNTT Digitalおよびシンガポールのステーブルコイン発行企業StraitsXと連携し、売掛金のトークン化を体験できるデモを披露した。このデモアプリでは、売掛金をトークン化し、デジタルウォレットで受け取る操作や、模擬取引所でトークンを取引する体験ができる。最終的に、StraitsXのシンガポールドル連動型ステーブルコイン「XSGD」を用途限定型マネー(Purpose Bound Money、PBM)として受け取ることが可能で、来場者の関心を集めた。
売掛金トークン化によるキャッシュフロー効率の改善
通常、Amazonマーケットプレイスの出品者は14日ごとに売上金を受け取るが、状況によっては支払いが最大90日かかるケースもある。このデモでは、売掛金をトークン化し、少額の割引率で投資家に売却(ステーブルコイン決済)することで、回収期間を短縮する仕組みを再現した。これにより、出品者はキャッシュフローの圧迫を軽減し、資金繰りの改善が期待される。
売掛債権を現金化するファクタリングサービスの需要は特に中小企業から強く、2023年の市場規模は約5.3兆円と推計される*。2026年を目処に予定されている約束手形の廃止もあり、ファクタリングニーズは今後さらに高まる見込みだ。売掛金または売掛債権のトークン化は、ブロックチェーン技術の利点を活用し取引の流動性と透明性を高めるため、ファクタリングの一種として中小企業にも有益な資金調達手段となるだろう。
また、Amazonはシンガポール金融管理局(MAS)の「Project Orchid」の一環として、昨年もフィンテック企業のFAZZやGrabとともにエスクロー決済の実証を行なっている。具体的には、購入者が支払いを済ませた後、商品の配達が確認されるまでAmazonが支払いを受け取らない仕組みを試しており、これにより取引の透明性と信頼性が向上する。このような取り組みは、今後のeコマース分野におけるブロックチェーン技術の応用を示している。
こうしたAmazonの取り組みはいずれもシミュレーションの段階であり、公式ソリューションとして計画されているわけではないが、将来的にはこうした技術が日常取引の裏で活用される可能性もある。
NTT Digitalの次なるステップ
デモアプリで使用されたNTT Digitalのデジタルウォレット「scramberry WALLET SUITE」は、11月1日から海外ユーザーも利用可能となった。また、このウォレットはWebサービスやスマートフォン用アプリへの組み込みも可能で、利便性の向上が期待される。
さらにNTT Digitalは2025年上期を目処にデジタルアイデンティティ分野への参入も計画しており、Web3の技術を活用した幅広いビジネス展開が進む見込みだ。NTTドコモは2022年11月に、今後5〜6年で6000億円をWeb3分野に投資すると発表しており、その次なる展開に注目が集まる。
*(参照)アンクパートナーズ合同会社が公表した日本のファクタリング市場2023年
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