BRICS首脳会議、ロシアがドル覇権に挑む新たな国際決済システムを提案

10月22日から24日にかけて、ロシアのカザンで開催予定のBRICS首脳会議(BRICSサミット)で、ロシアが国際金融システムの改革として、新たな決済システムの構築を提案する見通しだ。この提案の主な目的は、米ドルへの依存を減らし、西側諸国からの制裁に対する経済的な耐性を強化することだ。BRICS諸国は、米ドル覇権に挑み、独自の経済ブロックとしての存在感を高めようとしている。


ロシアの戦略:ドル依存からの脱却


ロシアの財務省と中央銀行が準備した文書によれば、今回提案される新たな国際決済システムは、分散型台帳技術(DLT/ブロックチェーン技術など)を活用し、各国の通貨に裏付けられたデジタルトークンを使用する仕組みだ。このシステムにより、米ドルを介さずにBRICS諸国間で通貨取引が可能となり、取引がより効率的かつ低コストで行えるようになる。

決済システムのアプローチは、商業銀行が中央銀行を経由して結ばれるコルレス・ネットワークを利用し続ける仕組みに基づいている。DLTを採用することで、取引の透明性が向上し、決済スピードの加速が期待されている。また、信用リスクの軽減や、仲介業者を排除した直接取引が可能となることで、コストの大幅な削減も見込まれている。ロシアは、このシステムにより取引コストが1〜2%に削減されると予測しており、もしBRICS諸国の越境決済の50%がDLTを通じて行われた場合、年間約150億ドルのコスト削減が実現できると試算している。


なお、米JPモルガン・チェースとOliver Wymanが2022年に発表したレポートによると、CBDC(中央銀行デジタル通貨)を導入することで、世界中の企業がクロスボーダー決済にかかるコストを年間1,000億ドル以上削減できる可能性があるとの試算結果も報告されている。



SWIFTの課題とBRICSによる新たなアプローチ


国際決済に関連する重要なトピックとして、金融取引のメッセージングシステムが挙げられる。現在、銀行間の取引情報交換は主にSWIFT(国際銀行間通信協会)を介して行われているが、このシステムは中央集権的な枠組みに基づいている。SWIFTは、2023年に「89%のクロスボーダー決済が1時間以内に完了している」と報告しているが、BRICS諸国の調査によると、現行システムには以下のような課題がある。

  • 時間の遅延
    特定地域では決済が遅延し、効率が低い。
  • 高コスト
    たとえば、ブラジルの取引では為替スプレッドが2.5%、アフリカでは8.5%に達し、他の地域では20%を超えることもある。
  • 価格透明性の欠如
    決済に関するコストの内訳が不透明であるため、予測しにくい。

これらの課題を踏まえ、BRICSはより効率的で透明性の高い解決策を模索している。


SWIFT制裁とロシアの対応


ロシアは、2022年2月のウクライナ侵攻後、西側諸国からの制裁により、主要なロシアの銀行がSWIFTのシステムから排除された。この制裁により、ロシアの銀行は国際金融取引が大幅に制限され、特に国際決済や送金に困難が生じた。SWIFTは国際的な金融取引において極めて重要なインフラであり、この排除はロシアの国際金融取引に大きな打撃を与えた。

これに対し、ロシアは米ドルに依存しない新たな決済システムの構築を急務とし、BRICS諸国と協力して代替的な国際決済システムを模索している。分散型台帳技術やCBDCの活用は、SWIFTの排除に対する対応策として期待されている。



分散型台帳技術を活用した新しい決済システム


ロシアが提案する新たなクロスボーダー決済インフラは、メッセージングシステムと外国為替取引銀行のネットワークという2つの軸で構成されている。DLTを用いて、各国が独立して運営する複数のシステムが互換性を持って連携する仕組みだ。国際決済の標準化と効率化を進めることを目的としており、従来のクリアリングモデルと比べて、仲介業者を減らし、複雑なコンプライアンスチェックを簡素化することで、決済速度の向上とコスト削減を実現できると期待されている。

ソース:BRICS 2024 / IMPROVEMENT OF THE INTERNATIONAL MONETARY AND FINANCIAL SYSTEM



その他レポートでは、以下3つのアプローチが提案されている。

  1. 現地通貨で国際取引を行う世界的な商業銀行ネットワークの構築
  2. 各国の中央銀行間の直接的な接続の確立
    外部からの圧力を受けることがない形で、中央銀行同士を直接接続し、通貨ネットティングシステムを活用し、取引コストを削減。
  3. コモディティ資源(穀物、石油、天然ガス、金など)の相互取引の中心地設立
    独立した価格設定を確立し、BRICS諸国の経済的主権を強化。


今後の展望BRICSの挑戦が米ドル覇権を崩せるか?


BRICSは、ブラジル、ロシア、インド、中国、南アフリカから成る経済連合だが、エジプト、エチオピア、イラン、アラブ首長国連邦といった新たな加盟国を迎え、さらにその影響力を強めている。特に、ロシアのプーチン大統領は、BRICSを米国や西側諸国に対抗する経済ブロックとして成長させる意図を持っており、国際金融システムに対する改革を進める姿勢を示している。

ロシアの提案書では、国際通貨基金(IMF)や世界銀行など西側主導の国際金融機関が、先進国の利益に偏っていると批判され、BRICS諸国がより公平で分散型の新たな金融システムを築く必要があると述べている。特に、国際決済における米ドルの支配的な役割を緩和し、BRICS諸国の経済的自立を進める動きが重要視されている。


ロシアの提案する新しい決済システムは、技術的には可能であり、理論的には西側制裁の影響を回避する一歩となるかもしれない。しかし、実際にこれが広く普及するためには、他のBRICS諸国の協力だけでなく、国際社会の支持も必要だ。また、米ドルに対抗するためには、通貨の信頼性と流動性を確保しなければならない。現状では、米ドルが国際的な基軸通貨としての地位を失うことは容易ではないが、BRICS諸国の挑戦がどのように展開するか、今後の動向に注目が集まる。

Credit: Photographer/photo hosting agency photo-summit.brics-russia2024.ru.

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