デジタル革命のうねりが金融のフロントラインにまで及ぶなか、分散型台帳技術(DLT)の活用は、これまで数日を要した決済業務を大幅に短縮する可能性を秘めている。今回、米ゴールドマンサックス(GS)と、欧州最大級の国際証券決済機関であるクリアストリーム(Clearstream)は、英国のフィンテック企業HQLAᵡが提供するDLTプラットフォームとクリアストリームのD7デジタル証券基盤を活用して、わずか数時間内に完結するイントラデイ(日中)レポ取引を成功させた。欧州中央銀行(ECB)の主導するホールセール(法人)向けDLT決済の実証試験で実施されたこの試みは、金融インフラを瞬時決済へシフトさせ、グローバル市場へと新たな競争力を提供する可能性を示唆している。
日中レポ取引が示す新たな可能性
通常、レポ取引は約定から決済まで数日を要するが、イントラデイレポ取引では同日中に担保と資金がやり取りされる。この即時性によって資金繰りの柔軟化やリスク管理の高度化、ひいては資本コストの軽減が期待される。今回の取引では、ユーレックス・レポ(Eurex Repo)のF7トレーディングシステム上で条件が成立すると、HQLAᵡのDLTプラットフォームを通じて担保が即座にデジタル移転する。現金決済にはドイツ連邦銀行(ブンデスバンク)の「トリガーソリューション」が用いられ、リアルタイムグロス決済(RTGS)による瞬時性が確保された。
HQLAᵡの初の実用ケースとDLT相互運用性
HQLAᵡはこれまでシミュレーションを通じて担保移転の迅速化を示してきたが、今回初めて実稼働レベルでの現金決済を伴うケースを成立させた。ECBの実証実験への参加を通じて、HQLAᵡは異なる決済基盤や資金手段と円滑に連動できる相互運用性を証明し、欧州全域での日中決済市場実現に向けた現実的な一歩を踏み出した。
ゴールドマンサックスの視点:流動性・担保最適化と収益機会
ゴールドマンサックスEMEAデジタル資産部門責任者のAmar Amlani氏は、イントラデイ市場が流動性と担保を効率的に活用し、リスク軽減しつつ新たな収益機会の生み出す手段になると強調した。また、同氏は、HQLAᵡのようなDLT基盤とデジタルマネーを組み合わせることで、より精緻かつ同時性の高い決済が実現し、国際的な金融市場の競争力を一段と高めるだろうと述べた。
今後の展望:マルチカレンシー対応と規制環境整備
HQLAᵡは英国ポンド建てのレポ決済にも対応すべく、デジタル決済プラットフォームFnalityとの連携を模索している。ただし、これには規制当局の承認など課題も多い。だが、こうした法規制面や技術面のハードルを乗り越えることは、より広範な市場への展開、そして真のマルチカレンシー対応を可能にする重要な過程となる。
今回の試験的成功は、金融市場が次のステージへ向かう可能性を示す重要な一歩といえる。DLTを活用した即時決済は、既存の金融インフラに新たな分散化・効率化の方向性を示し、将来的には24時間365日稼働するグローバルな金融基盤の実現を後押しするかもしれない。これにより、地理的・時間的な制約が緩和され、より幅広い投資家層の参加を促し、市場全体の活力を高めることが期待される。こうした動きは、金融市場全体がより透明で効率的なエコシステムへと進化していく一助となろう。
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