デジタル資産市場は、技術革新が急速に進展する一方で、規制と安全性の確保が求められる時代に突入している。この複雑な課題に対応するため、各国は市場成長と信頼性のバランスを模索している。
シンガポールは、柔軟な規制フレームワークと官民連携による実証実験を通じて、新たな技術の実用化を積極的に推進。一方、日本は過去の事件を教訓にした慎重なリスク管理を基盤に、投資家保護を重視しつつ、規制見直しを進めている。両国のアプローチは、それぞれの市場環境や政策課題を反映しながら、デジタル資産市場の成長と信頼性向上に寄与している。
1. シンガポールの規制モデル:柔軟性とイノベーション推進
実証実験が示すシンガポール規制の革新性
シンガポール金融管理局(MAS)は、デジタル資産市場の成長を支える包括的な規制を整備している。また、官民連携を活用した実証実験「Project Guardian」を主導し、資産トークン化や分散型金融(DeFi)の可能性を探る取り組みを進めている。
- クロスカレンシー取引の実証
JPモルガンやDBS銀行、SBIデジタルアセットが参加し、トークン化されたシンガポールドル(SGD)と日本円(JPY)を用いたスマートコントラクト取引が成功。 - トークン化資産の運用試験
コマーシャルペーパー、クレジットファンド、マネーマーケットファンドなどのトークン化を試験し、流動性向上と取引コスト削減が確認された。 - 分散型金融(DeFi)の実装
パブリックブロックチェーン(ポリゴンメインネット)上で、DeFiレンディングプロトコルの活用を検証した。 - クロスボーダー送金の効率化
トークン化通貨を利用した即時送金を実証し、国際送金のスピード向上とコスト削減を達成した。
投資家保護と規制のバランス
MASは暗号資産取引のリスクを抑制するため、リテール投資家向けの規制を導入している。信用取引やクレジットカード決済を禁止し、過度なリスクテイクを防止。また、現時点ではビットコインETFの導入を見送り、適格資産として認めていない。MASは慎重な姿勢を保ちながらも、国際的な協力の枠組みを活用して規制の進化を続けている。
2. 日本の規制モデル:慎重なリスク管理と技術革新の後押し
投資家保護を重視した堅実な規制
日本の金融庁は、過去の暗号資産流出事件を背景に、顧客資産の分別管理や広告規制を通じて透明性と信頼性を確保する取り組みを進めてきた。
日本の慎重な規制改革が目指す市場成長
- 新たな仲介業態の検討
2024年11月には、「暗号資産・電子決済手段仲介業(仮称)」を検討中であり、通信会社やゲーム会社が暗号資産取引市場に参入しやすくなることが期待されている。 - 規制の見直し
2024年9月、金融審議会の作業部会で資金決済法改正に向けた議論が開始。ステーブルコインの規制緩和を視野に入れた改正案が2025年の通常国会に提出される見通し。 - ビットコインETFの検討
米国市場でのビットコインETF承認を受け、日本でもその導入が議論され始めている。現物ETFは、透明性向上や機関投資家の参入促進につながる可能性があり、柔軟な規制対応が期待される。
課税制度の課題と見直しの期待
日本では暗号資産の利益が雑所得として最大55%課税されている。一方、シンガポールでは暗号資産取引に対するキャピタルゲイン税が免除されており、この違いが投資家の市場参入意欲や市場成長に影響を与えている。税制改革が進めば、日本の市場競争力を高めるだけでなく、新たな投資機会の創出やイノベーション促進にもつながる可能性がある。
3. 両国の規制モデルから見える未来
シンガポールと日本の規制モデルは、デジタル資産市場における成長と信頼性の確保に向けた異なるアプローチを示している。シンガポールは柔軟な規制フレームワークを通じて新技術の導入を加速し、他国の参考モデルとなりつつある。一方、日本は慎重なリスク管理を基盤に市場の透明性と安定性を追求しており、成熟した市場における堅実な規制の典型といえる。
両国のアプローチは、単独で完結するものではなく、相互補完的である。たとえば、シンガポールのイノベーション重視のモデルが日本の市場安定性を支える技術的な基盤を提供し、日本の厳格な規制がシンガポールの新興市場に信頼性を付加する可能性がある。このような協力の深化は、グローバルなデジタル資産市場の規制枠組みの調和に寄与し、持続可能な市場成長を実現するカギとなるだろう。
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