英国発のデジタル国債、デジタル・ギルトの可能性とは?

英国政府が、分散型台帳技術(DLT)を活用したデジタル国債「デジタル・ギルト」のパイロット実験を開始する計画を進めている。このプロジェクトは、英国財務省(HM Treasury)と英国債管理局(Debt Management Office, DMO)が主導しており、英国資本市場の近代化と競争力向上を目指すものである。

この実験では、DLTを活用することで国債の発行、取引、決済プロセスをデジタル化し、即時決済や市場流動性の向上を実現することが目標とされている。さらに、レポ取引(現金担保つきの債券貸借取引)や担保利用の効率化が検証される予定だ。


この計画を具体化するうえで重要な役割を担っているのが、英国金融の業界団体UK Financeである。同団体はEYと共同して「デジタル・ギルト・ロードマップ」を策定し、2024年4月に政府に提出したことを今月公表した。ロードマップでは、実験の詳細なプロセスと、その導入によって期待される効果が示されている。

デジタル・ギルトの背景と目的

UK Financeが政府に提出した「デジタル・ギルト・ロードマップ」によると、このプロジェクトの狙いは、英国資本市場の効率性と透明性の向上である。従来の国債取引は、発行から決済まで数日を要し、これが市場の流動性を制約していた。DLTの導入により即時決済が可能となれば、こうした非効率が解消され、資本市場全体の効率性が大幅に向上すると期待されている。

将来的には、デジタル・ギルト(デジタル英国債)をレポ取引の担保として利用することが検討されており、これにより金融機関が短期的な資金需要を効率的に管理し、余剰資金を有効活用する新たな仕組みが提供される見通しである。

二つのアプローチ:進化的導入とビッグバン戦略

UK Financeは、デジタル・ギルトの導入方法として「進化的アプローチ」と「ビッグバンアプローチ」の二つを提案している。

アプローチ①:Evolutionary(進化的アプローチ)

  • 第1段階(6か月以内): 短期デジタル国債(3か月)を限定的な市場参加者に発行。発行から決済までをDLTで管理。
  • 第2段階(1年以内): 中期デジタル国債(5~15年)を発行。担保としての利用が可能となり、市場参加者を拡大。
  • 第3段階(18か月以内): 長期デジタル国債(15年以上)を完全デジタル化。発行、取引、担保利用をすべてDLTで実現。


アプローチ②:Big Bang(ビック・バンアプローチ)

段階的な導入を飛ばし、初めから完全デジタル化を目指す戦略である。法的・技術的な課題は多いが、成功すれば英国が国際市場でリーダーシップを発揮する可能性がある。

同レポートでは、「進化的アプローチ」と「ビッグバンアプローチ」のそれぞれの長所と短所について言及しており、具体的な採用方針については触れられていない。

Source:UK FInanceが公表したレポート


デジタル・ギルトのメリット

デジタル化された国債の導入は、以下のようなメリットをもたらすとされる。

  1. 即時決済(rea-time atomic settlement)による資金効率化
    DLTの導入により、取引が即座に完了する仕組みが実現する。これにより、銀行や機関投資家は日中の資金調整を効率的に行い、流動性管理の精度を高めることができる。さらに、取引プロセスが迅速化されることで、資金の回転率が向上し、短期資金の運用が最適化される
  2. 取引コストの削減
    スマートコントラクトの活用により、清算・決済のプロセスが自動化される。これにより、従来必要とされた仲介業務が削減され、発行から受け渡しまでの運用コストが大幅に低減する効果が期待される
  3. 透明性と信頼性の向上
    DLTを採用することで、取引履歴がリアルタイムで追跡可能となる。この仕組みは取引の透明性を高め、不正リスクを抑制するとともに、金融市場全体への信頼感を強化する
  4. 市場アクセスの拡大
    DLTの効率性やコスト削減効果により、小規模投資家や新興市場が資本市場に参入しやすくなる。参入障壁の低下で、より多様な投資家が市場に集まり、資本市場の活性化に繋がる
  5. リスクマネジメントの向上
    DLTはリアルタイムかつ24時間365日の取引を可能とするため、システミックリスクやカウンターパーティリスクの低減に寄与する

Source:UK FInanceが公表したレポート


法的課題と規制対応

デジタル・ギルトの導入には法的および規制的な課題が伴う。特に、デジタル資産を担保として認めるための規制整備や、中央銀行がデジタル国債を適切な担保として受け入れる仕組みが必要である。英国の「デジタル証券サンドボックス」は、この課題解決に向けた試験的な場として活用されている。

また、英国以外の事例として、スイスやドイツでは既にデジタル債券の発行が進んでおり、それらの成功事例を参考にすることで英国は効率的な市場導入を目指している。

英国が狙う未来

デジタル・ギルトは、国債のデジタル化を通じて英国資本市場の効率性を高める試みである。UK Financeは、このプロジェクトによって「安定性が高く革新的なデジタル資本市場の基盤を整備し、フィンテックとデジタル金融の分野で英国の競争力を強化できる」と期待している。英国政府は、この取り組みを進めることで、資本市場における国際的な地位の向上を目指している。

まとめ

日本では、国債のデジタル化に関する取り組みは、既存システムの堅牢性や技術導入の優先度などから、現時点で本格的に進んでいるとは言い難い。一方で、英国の動向は、国際的な資本市場における新たな基準を形成する可能性もある。その進展を注視しつつ、日本における適用の可能性について議論を深めていくことが求められるだろう。

参考:UK FinanceとEYが公表した原文レポート(英文)はこちら

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