豪ANZ銀行、ステーブルコインで年金給付を効率化:確定拠出年金制度改正への対応

オーストラリアの四大銀行の一つ、オーストラリア・ニュージーランド銀行(ANZ銀行)と年金基金大手HESTA(ヘスタ)は、ANZ銀行がパイロット発行した豪ドル連動のステーブルコイン「A$DC」を、確定拠出年金(スーパーアニュエーション)の新ルールに適応できるか検討しているとAustralian Financial Reviewが報じた。これは、2026年7月に施行されるペイデイ・スーパー・ルールに対応するための取り組みだ。

スーパーアニュエーション(Superannuation)は、オーストラリアの退職年金制度であり、雇用者が給与の一定割合を従業員の年金として積み立てる義務がある。従業員は自ら運用戦略を選び、退職後の資産形成を進めることができる。この制度は、運用に関する規制が厳格であり、長期的な安定した資産形成を支えている。

ペイデイ・スーパー・ルール(payday super rule)の導入

現在、確定拠出年金の拠出金(掛金)は四半期ごとに支払われているが、2026年7月に導入されるペイデイ・スーパー・ルールでは、給与と同時に拠出金の支払いが義務付けられる。この改革により、62%の雇用者が四半期ごとに行っている支払いが毎月行われるようになり、トランザクションが増加する見込だ。

四半期ごとの支払いから給与と同時に行うことで、従業員の退職時の年金額が増加することも期待されている。財務省の推計によれば、25歳の中所得層の労働者が給与と同時に年金拠出金を受け取ることで、退職時の年金残高が1.5%、約6000豪ドル(日本円にして約60万円相当)増加する可能性がある。この早期拠出により、資金が迅速に投資に回され、長期的な運用成果に寄与するためである。
ANZ銀行とHESTAは、A$DCを用いてこの新たなルールに対応し、支払いプロセスを大幅に効率化することを目指している。


ステーブルコインとスマートコントラクトの役割

従来、確定拠出年金の拠出金は、企業が資金を送金し、その後、別途データを送信する二段階のプロセスで処理されていた。これにより、手作業による照合作業が必要となり、エラーや業務負担が生じることが多かった。取引を監視するゲートウェイ・ネットワーク・ガバナンス機関によれば、「スーパー・ストリーム」と呼ばれる中央決済機関では年間約2億件の取引が処理されており、そのエラー率は1.6%に達している。データと支払いの照合に10日以上かかることもあるという。

ANZ銀行とHESTAは、スマートコントラクトを活用して、データを直接結びつけられるデジタルトークンとしてのステーブルコイン技術が、新たな規則の遵守にどのように貢献できるかを検討している。この技術により、企業が手動で行っている照合作業を自動化し、業務効率を大幅に向上させることが期待されている。また、従業員は自身の拠出金状況をリアルタイムで確認できるようになり、年金管理の透明性も大幅に向上する見込みだ。

この取り組みは、ANZ銀行がオーストラリア中央銀行と協力して進めているプロジェクトの一環である。今後、この技術は確定拠出年金の支払いにおける正確性と透明性を高め、企業と従業員の双方に大きなメリットをもたらす可能性がある。さらに、ステーブルコインを年金支払いプロセスに活用する実用的なユースケースとしても注目を集めている。

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