欧州最大のヘッジファンド、ブレバン・ハワード・アセット・マネジメントの暗号資産およびデジタル資産を運用する部門「Brevan Howard Digital(BH Digital)」が、米銀最大手のJPモルガンのトークン化プラットフォーム「Onyx(オニキス)」と提携した。この提携により、BH Digitalは、24時間365日対応のクロスボーダー決済と即時取引を実現し、流動性管理の効率化を図ることができる。
JPモルガンのOnyx(オニキス)とは
Onyxは、JPモルガンが2020年にローンチしたブロックチェーンソリューションで、すでに米ゴールドマン・サックス、シンガポール大手銀のDBS銀行、仏金融大手BNPパリバ、米ブラックロックといった大手金融機関で採用されている。Onyxは、イーサリアム基盤のプライベートブロックチェーンネットワーク「Quorum」を採用しており、JPM Coinという預金を裏付けとするデポジットトークンを使用することで、ユーザーウォレット間で即時に資金を移動できる。この仕組みによって、従来の国際決済にかかる時間やコストが大幅に削減され、多国籍企業や資産管理会社にとって重要なツールとなっている。
デポジットトークンとステーブルコインの比較
JPM Coinの大きな特徴は「プログラム可能な決済」であり、スマートコントラクト技術を用いて、特定の条件が満たされた際に自動的に決済が実行される。これにより、デリバティブ取引などの高度な金融取引において、リアルタイムでの担保移動や資金の即時決済が可能となる。また、JPM Coinは特にクロスボーダー決済に強みを持ち、24時間365日、KYC済みデジタルウォレット間での瞬時の資金移動が可能だ。このシステムにより、資産管理会社や機関投資家は取引の効率を大幅に向上させることができる。

法定通貨のトークン化においては、プライベートチェーン上で発行されるデポジットトークンと、パブリックチェーン上で発行されるステーブルコインの比較が行われる。ぞれぞれにメリットとデメリットがあり、想定されるユースケースやターゲット顧客が異なる。
JPモルガンのOnyxが提供するデポジットトークンは、特にB2B取引に適しており、1日あたり100億ドル相当の大規模な取引高に対応できる。厳密なリスク管理と高度なセキュリティ、規制遵守が求められる企業向けに最適化されているのが特徴だ。
一方、USDTやUSDCなどのステーブルコインは、リテール市場向けに利便性が高く、特に銀行口座を持たないユーザーでもアクセスしやすい。ただし、パブリックチェーン上でのステーブルコインの利用には、アンチマネーロンダリング(AML)対策の観点から追加のリスク管理が必要となる。それでも、流動性が高く、広く受け入れられているステーブルコインは、日常的な取引や送金の手段として広く活用されている。
JPモルガンのOnyxとパートナーシップの主な歩み
JPモルガンのOnyxは、デジタル資産分野で急速に成長しており、JPM Coinの取引量は2023年には1日あたり10億ドルに達している。直近のOnyxの主なパートナーシップとその動向は次の通り:
2023年6月: JPM Coinがユーロ圏での展開を開始し、ユーロ建て決済が可能となる
2023年10月: 米ブラックロックがOnyxを活用して、マネー・マーケット・ファンドをトークン化。Tokenized Collateral Network(TCN)アプリケーションとの接続を通じて、英バークレイズとの間で担保決済取引を実行
2024年4月: 財務管理システム(TMS)のSaaSサービスを提供する米Kyriba(キリバ)と統合、24時間対応の決済ソリューションを提供開始
2024年6月: 米フィデリティがOnyxを活用して、マネー・マーケット・ファンドをトークン化
2024年9月: ドイツの大手電機メーカー、シーメンスがOnyx上でトークン化社債を発行
2024年9月: アラブ首長国連邦(UAE)最大のファースト・アブダビ・バンクがJPM Coinを使用し、プログラム可能な決済のパイロットを開始。昨年のクロスボーダ決済に続くパイロット実証となる
2024年10月: ブレバン・ハワードがOnyxを活用したクロスボーダー決済を行う
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