証券会社の未来はコインベースに?暗号資産が描く新金融構造

暗号資産が伝統的金融の枠組みを揺るがしつつある。その最前線に立つのが暗号資産取引所大手の米コインベース(Coinbase)だ。Bitwiseの2025年予測によれば、同社の株価は700ドルを超え、米大手金融サービス会社のチャールズ・シュワブを凌ぐ可能性があるという。暗号資産市場の拡大や規制環境の変化が追い風となり、コインベースは単なる取引所を超えた多角的なビジネスモデルを展開。こうした動きは、金融システムそのものを再構築する兆しとも言える。

1. コインベースの飛躍:成長の背景

株価の遷移

  • 2021年:IPO時の株価は約340ドル。その後低迷し、2023年には31ドルまで下落
  • 2024年:主要暗号資産価格の回復と規制環境の改善を受け、今年6月に株価は一時349ドルまで回復。投資家の期待は高まる一方である
  • 2025年予測:Bitwiseが出した2025の市場予測レポートでは、コインベースの株価は700ドルを超え、チャールズ・シュワブを超える時価総額を達成すると予測されている。しかし、この予測には幅を持たせて捉える必要がある

成長の主な要因

  • 安定した収益基盤:ステーブルコインとLayer 2ネットワーク「Base」の急成長
  • 新たなサービスの導入:ステーキングおよび暗号資産保管サービス
  • ユーザー数の増加:暗号資産の普及に伴い、コインベースの取引高が大幅に増加している

coinbase globalの株価(2024/12/14) Investing.com


2. 金融業界の地図を塗り替える3つの要素

1)暗号資産の普及

現物ビットコインETFの成功と規制の整備により、投資家は暗号資産への信頼を高めている。これにより、従来型証券会社では提供できない暗号資産関連サービスが求められる時代が到来している。


2)多角的なビジネスモデル

コインベースは単なる暗号資産取引所に留まらず、以下に示す多角的なビジネスモデルを有することで、他の証券会社を凌駕する可能性を秘めている。

  • Layer 2ソリューション「Base」:Ethereumのセキュリティ性を確保しつつ低コストかつ高速な取引を実現
  • ステーブルコイン事業:サークル社との提携により、安定した収益を確保
  • ステーキング:暗号資産を保有するだけで収益を得られるサービス(暗号資産をブロックチェーンネットワークに預け入れ、ブロックチェーンの安定稼働に貢献することで報酬を得る仕組み)

3)若年層投資家からの支持

暗号資産は「デジタルネイティブ」世代にとって自然な選択肢であり、コインベースはその入り口として絶大な支持を集めている。

コインベースの躍進は、伝統的金融機関とは全く異なるビジネスモデルの構築に成功している点にある。従来型証券会社の代表例であるチャールズ・シュワブ(米国最大級の個人投資家向けブローカー)と比較すると、チャールズ・シュワブが成熟市場での安定的なビジネスモデルに依存しているのに対し、コインベースは新興市場である暗号資産を成長の軸として急速に拡大している点が特徴的だ。

項目コインベースチャールズ・シュワブ
主要サービス暗号資産取引、Layer2、ステーブルコイン、ステーキング株式取引、リタイアメントプラ/退職金の運用・管理
成長率高い(暗号資産市場の急成長に支えられる)安定的(成熟市場に依存)
収益源の多様化多様(分散された収益モデル:取引、ステーキング、ネットワーク)限定的(株式市場中心)
革新性高い(分散型金融の採用)中程度(既存市場の運用が中心)
ポテンシャル既存金融市場を超える可能性成熟市場での成長余地が限定的


3. 規制と政治の影響:追い風と逆風

暗号資産業界における規制の追い風

  • トランプ新政権下での親暗号資産政策(Bitwiseのレポートによれば、401(k)プランでの暗号資産導入が進めば、8兆ドル規模の資産市場からの新たな資金流入が期待される)
  • 米国以外の国々(例:ヨーロッパ、アジア)での暗号資産に対する議論も活発化しており、規制の枠組みを整備しようとする動きが具体的に見られるようになった。例えば、欧州連合(EU)で導入されたMiCA規制(Markets in Crypto-Assets)は、暗号資産市場の透明性と信頼性を高める画期的な枠組みとして評価されている。これにより、欧州地域での機関投資家の参入が加速すると予測される

潜在的なリスク

  • 規制の厳格化:特に米国での規制強化が、同社の収益モデルや事業展開に直接的な影響を与える可能性がある。例えば、ステーブルコイン規制の強化が収益性に影響を及ぼす懸念がある
  • 競争激化:分散型金融(DeFi)の普及や他の暗号資産取引所との価格競争が、コインベースの市場シェアを圧迫する可能性がある。DeFiプラットフォームは中央集権的な取引所に比べて手数料が低く、ユーザーが移行するリスクが高い
  • 技術革新のリスク:Web3やLayer 2ソリューションの技術革新が急速に進む中、コインベースは競争力を維持するために多額の投資を余儀なくされる可能性がある。この負担が収益性に影響を与える可能性は否定できない


4. 世界最大の証券会社が暗号資産企業になる未来とは?

投資家への影響

  • コインベースの成長により、従来の証券会社は暗号資産への対応を迫られる
  • 投資ポートフォリオにおける暗号資産の割合はさらに高まる可能性がある


社会的なインパクト

  • 若年層や新興国の投資家がグローバルな市場にアクセスしやすくなる
  • 暗号資産が金融の中心に加わることで、金融サービスの民主化が進む


5. デジタル金融がもたらすパラダイムシフトとコインベースの将来性

コインベースの台頭は、単に一企業の成功物語に留まらない。これは、伝統的な金融システムが変革を迫られていることの象徴と言えるだろう。特に注目すべきは、以下の3点である:

  • 金融へのアクセス拡大: 暗号資産は、これまで金融サービスへのアクセスが限られていた人々にも、グローバルな金融市場への参加機会を提供する。これは、地理的な制約や所得格差を超えた、真の意味での金融の民主化を意味する
  • 分散型金融(DeFi)との融合: コインベースがLayer 2ソリューション「Base」を推進していることは、中央集権的な取引所と分散型金融の融合を示唆している。今後、CeFi(中央集権型金融)とDeFiの境界線は曖昧になり、よりシームレスな金融サービスが提供される可能性がある
  • Web3経済圏の拡大: 暗号資産は、単なる投機対象ではなく、Web3経済圏を支える基盤技術としての役割を担っている。コインベースの成長は、Web3エコシステムの拡大と密接に結びついており、デジタル所有権に基づく新たな経済圏の創出を加速させるだろう

コインベースの成長は、暗号資産が金融アクセスの拡大や民主化を実現する可能性を示している。特に、新興国では銀行口座を持たない層や高コストな国際送金の課題を解決する手段として、その利点が際立つ。一方で、先進国では既存の金融インフラが整備されているため、暗号資産の直接的なメリットが目立ちにくい場合もある。たとえば、日本のようにほとんどの国民が銀行口座を保有し、送金や決済で大きな不便を感じていない市場では、暗号資産の普及が即座に「金融の民主化」に結びつくとは限らない。

それでも、暗号資産がもたらす新たな金融エコシステムの可能性は無視できない。既存の金融秩序を完全に置き換えるのではなく、伝統的金融機関との融合による補完的な役割を果たすことで、その真価が発揮されるだろう。この過程では、特に先進国において、規制整備や市場の透明性向上が鍵となる。暗号資産が提供する技術やインフラは、既存の金融サービスを効率化し、より柔軟でアクセス可能な仕組みを生み出す可能性を秘めている。

一方で、成長にはリスクも存在する。Bitwiseのレポートが示す成長シナリオは有望だが、規制環境の変化や競争激化、技術革新が同社の収益モデルに影響を与える可能性がある。特に、分散型金融(DeFi)の普及や新規参入による競争は、コインベースの市場シェアを圧迫するリスクを孕んでいる。

コインベースの将来は暗号資産市場全体の発展に密接に結びついている。既存の金融プレイヤーにとって、暗号資産が新しい金融時代の中心となる現実を理解し、その動きを自社戦略にどう取り込むかが、競争力を左右する鍵となるだろう。


(参考)Bitwise The Year Ahead: 10 Crypto Predictions for 2025

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